東京地方裁判所 昭和53年(ワ)3034号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【説明】
「原告は弁護士であり、Aに対する覚せい済取締法違反被告事件の弁護人であるが、Aは、保釈保証金を一〇〇万円、うち二〇万円については原告の差し出す保証書をもつて代えることを許可する旨の保釈許可決定を得た。そして、原告が弁護人名義の二〇万円の保証書を提出した。ところが、右保釈は、その後Aの指定条件違反によつて取消され。保証金はすべて没取された。
原告は、本件没取決定につき東京高等裁判所に対し、抗告の申立をしたところ、裁判官である被告Iらが右抗告を棄却し、原告は、右抗告棄却決定に対し、最高裁判所に特別抗告をしたところ、裁判官である被告Kらが右特別抗告を棄却した。
そこで原告は、本件没取決定をした裁判官をはじめ、以上の各裁判官らは、法律と良心に従い右違法な裁判を是正すべき職務権限を有するのに違法にもこれをせず、これにより原告は没取金の支払を余儀なくされ現実に二〇万円の損害を被るとともに、原告は前記被告らの違法な職務行為によつて職務権限と名誉を侵害され、二〇万円相当の精神的苦痛をうけた。」としてその請求をしたのが本件である。
【判旨】
二 原告の本訴請求は、被告国を除くその余の被告らが裁判官としてその職務を行うについて故意又は過失により違法に原告に損害を与えたとして、その損害賠償を請求するものであるところ、一般に、このような公務員の違法な職務行為を理由とする損害賠償の請求については、国又は公共団体のみが賠償の責に任ずるのであつて、当該公務員個人はその責任を負うものではない。したがつて、原告の被告国を除くその余の被告らに対する請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がない。
三原告は本件没取決定が違法であると主張しているが、保釈保証金没取決定は、保釈保証金もしくはこれに代わる有価証券を納付し又は保証書を差し出した者に対し、その者の国に対する保釈保証金等の還付請求権を消滅させ、また、その者に対して保証書に記載された金額を国庫に納付することを命ずることを内容とする裁判であるから、これを不服として争うには、抗告、異議申立等訴訟法規に定められた不服申立方法によるべきであり、そのような手続を経もしくは経ずしても右裁判の確定した以上、もはや原則として右裁判が違法にされたものということはできない。本件においては、当事者間に争いのない事実によれば、原告は本件没取決定に対し東京高等裁判所に抗告し、抗告棄却の決定を受け、さらに最高裁判所に特別抗告をしたが、右抗告も棄却されて、前記決定が確定するに至つたというのであるから、右決定が著しく正義公平に反してされたなどの特段の事由のないかぎり、本件没取決定を違法と判断することはできないものと解するのが相当である。
(宇野栄一郎 卯木誠 房村精一)